Bさんは三十代の前半の男性で、見るからに体育会系のがっしりしたからだをしています。学生時代はラグビーの選手だったということで、お顔もなかなか精悍なものでした。

仕事は印刷会社の営業で、都内の複数の出版社を担当されています。当院にいらしたBさんをカウンセリングしました。

開口一番、Bさんは「汗と臭いをなんとかしてはしいんです」と、強い口調でおっしゃいます。そのお顔は真剣そのものでした。話を進めていくと、Bさんの取引先から「担当を代えてはしい」と申し入れがあったということです。

その理由について、Bさんの上司がたずねると、取引先の担当者であるS課長は「いや、ちょっとね」と口をにごします。

上司にしてみれば、Bさんがどんな失敗をしたのかと心配になって先方を訪ねると、S課長は「Bさんはよくやってくれているんで感謝しているんですが、......臭いがね。困っているんですよ」と申し訳なさそうに言ったといいます。

その出版社は女性が多く、近代的なオフィスということです。社内禁煙は徹底しており、オフィス内はクリーンな環境が白慢だとか。
 そこにBさんが現れると、空気が一変してしまうといいます。近くをとおりかかっただけで強い臭いが感じられ、ワイシャツを汗びっしょりにしているBさんを見ると、気持ちが悪くなってしまうと複数の女性社員から訴えがあったというのです。

「Bさんは仕事ができる人なんで、私としてはこのまま担当でいてほしいんだけど、女性社員の声も無視できなくて」

とS課長が困ったように言われたとか。

気になった上司は、はかの取引先にも顔を出したところ、担当を代えてくれという申し入れはなかったものの、どこもBさんの臭いと多汗には閉口している様子です。そこで、このまま理由を説明せずに担当替えをしてもBさんが納得しないだろうと、上司はBさんを呼び出して、「なんとかならないか」と言ったそうです。

Bさんは大きなショックを受けました。

学生時代は男ばかりで、皆が揃って汗臭く、「男が汗臭いのは当たり前」と思っていたからです。社会人になっても、そうしたお友達と集まってはお酒を飲んでいたために、自分の臭いや汗が周囲に不快感を与えているなんて思ってもいなかったといいます。

しかし、それから複数の友人と集まって飲んだとき、「取引先から庭いっていわれて、担当から外されそうなんだ」と打ち明けたところ、友人たちは「やっぱり」というような顔をしたそうです。

Bさんが気づかなかっただけで、周囲は以前からBさんの臭いのことを困ったものだと思っていたといいます。

「お前の臭いは汗臭いっていうんじゃなくって、なんかネギが腐ったような臭いなんだよな」

ここでもBさんはショックを受けます。

Aさんは二十代の後半ということで、お母様とご一緒に来院されました。

詳しくお話を伺っていると、2ヵ月先に3年間交際した彼と結婚する予定だといいます。「それは、おめでとうございます」と言いかけたのですが、母娘ともに浮かない表情です。

それもそのはずで、ご本人の希望は「結婚式までにワキガを治したい」というものだったからです。これまで数々のデオドラント剤を使用し、エステにもかよわれたということなのですが、一向にワキガは消えません。

ついに困り果てて、クリニックのドアをノックしたということでした。Aさんのご友人が、当クリニックでニキビの治療をされたことがあり、「あそこなら安心だよ」ということで、ご紹介いただいたものです。

たしかに、ジャケットを脱がれたときに、腋の部分に汗取りバッドが装着されていました。しかし、臭いはそれはど強く感じません。これなら十分に許容範囲かと思って、Aさんにご希望を伺ったところ、 「絶対に、臭わないようにしてください」と、強くおっしゃいます。私か「それはど、気にされるようなものではないと思うのですが」と申し上げたのですが、頑として首を横に振られます。

Aさんいわく、「彼とは社内結婚で、恋のライバルは多数いた」「結婚式には、そうした人たちも招待しなければならない」「これまでも、その人たちから私のワキガ臭のことを悪く言われていた」「披露宴のキャンドルサービスのときに、テーブルを回ったら嫌がらせしてやると噂が飛び交っている」とのことです。

そのため、せっかくの晴れ舞台を前に、すっかりウツになってしまったというのです。

着用されるウェディングドレスの選定も、まだ迷っておられるということで、「腋が開いたタイプでは臭いが直接、もれてしまう」「スリーブがあるタイプだと、汗ジミが心配」ということで、一層、悩みが深くなってしまったとおっしゃいます。

皆さんはどんな時に、「私は、ひょっとしてワキガじゃないだろうか」と気づきましたか。それは思春期になってすぐのことでしょうか。それとも、もっと大人になってからのことでしょうか。

あるいは、家族や友人から指摘されて、自分のワキガに気づいたという方もいらっしゃると思います。

多汗症に関しても、ある日、突然に多汗症になってしまうのではなく、「なんだかわからないけど、掌の汗がすごくなってきたように思う」と、おっしゃられる方が少なくありません。

それまでは「ちょっと、汗っかきなんだよね」という程度だったのが、いつの間にか人前に出るのが怖くなるはどの多汗症になってしまったという方が、結構いらっしゃいます。

そして、その多くの方々は美容外科の門をくぐることなく、市販の制汗剤を始めとするデオドラント製品で、その症状を抑えておられます。

もちろん、ワキガ・多汗症とも、「治したい!」という気持ちは大きいのですが、「美容外科に行くのはちょっと怖い気がする」と尻込みされてしまっているのです。

最後に、ワキの下のレー・ザー脱毛について紹介しておきます。

ワキの毛は臭いの原因となる細菌のすみかになっているため、これをなくしてしまえばワキの下の臭いを軽減することができます。医療レーザー脱毛は毛根を破壊するため、毛が生えてこなくなるほか、毛穴がふさがることで肌がつるつる、すべすべになるというダブルのメリットがあるのです。

「それほどワキガ臭が強くないけど、できらば軽減した」「どうしても手術に踏み切れない」「ワキの下の永久脱毛とワキガ処理を軽く済ませたい」という方は、ぜひ専門医に相談してみてください。

これまで述べてきたように、ワキガ治療には数多くのバリエーションがあります。また、制汗剤をはじめとするデオドラント剤や食事制限、エステでの施術もあるでしょう。

しかし、ワキガに関しては、「ワキガのもとになるアポクリン汗腺を完全に除去する」以外に根本的な治療法はありません。

伝統的な方法で効果的な治療は、切開法や剪除法が一般的であり、医師の目視によって確実にアポクリン汗腺を切除することができます。しかし、こうした術式は後遺症や大きな傷痕、長い復帰期間などのことを考えると、とても選択できるものではありません。

そのため、私が現状においてベストと思えるハイブリッドマイクロシェーバー法で治療しているのですが、一部の美容外科医院やクリニックではデメリットのことを伏せて、メリットだけを大袈裟に宣伝しているところが少なからず見かけられます。

これは困ったことで、そうしたものを鵜呑みにしてしまうと、術後、後悔することになってしまいかねません。

手術後に「こんなはずじゃなかった」と後悔しないために、ぜひ積極的な情報収集を心がけてください。

最後に、「アフターケアは万全か」ですが、これがもっとも重要なことかも知れません。

「手術をしたらそれで終わり、後遺症や副作用がないのを確認してサヨウナラ」では困ってしまいます。

先に述べたように、どれだけ慎重に対処してもワキガや多汗症の場合、再発の可能性を秘めています。それは医療ミスというものではなく、使用する器具や術式の限界のはか、からだの再生ということからなのですが、こうしたことに無頓着な医師も少なからずいます。

たとえとしては、ちょっと違うのかも知れませんが、大工さんを考えてみてください。大工さんは家を建てるのが仕事ですが、家を建て終わり、人が住むようになると、いろいろと不具合が発生してくるものです。

そんなとき、大工さんに「なんとかしてくれませんか」と言って、「そんなものは大工の仕事じゃない。リフォーム業者に相談しろ」と返ってくるのと同じものかと思います。

その家を建てたのはその大工さんであるため、一番家のことを知っているはずです。それなのに、「ほかに行け」というのはあまりにも乱暴です。

続いて、「クリニック内の雰囲気はどうか」ですが、これも院長の性格や習性を反映してしまいます。

どことなく全体が汚れていたり、待ち合いコーナーが雑然としていれば、つい「やる気がないのかな」と思ってしまいます。掲出している医療キャペーンのポスターが時期を過ぎていたり、設置している雑誌類が古いものであったり、乱雑になっていれば、「こういうところに、神経が行き届かない人たちなんだな」と思わざるを得ません。

とくに美容外科の世界では、患者さんは"美"を求めて来院されます。

ところが院内がこんな有り様では、安心してからだを預けることができないでしょう。細部にまで、どれだけ気をつかっているのかを知るためにも、こうした観察は無駄にはなりません。

病院やクリニックでは、医師だけがしっかりしていればよいというものではなく、医療をサポートする看護師や薬剤師、技師などのサポートスタッフの協力が欠かせません。つまり、ひとつの強力なチームを作り上げることで、医療に臨んでいるということになります。

あなたが病院やクリニックに足を運んでみて、「受付の態度が横柄だった」「お局様のような看護師が現場を取り仕切っているみたい」「なんとなく院内の雰囲気がパラパラたったように思う」などと感じられたら要注意です。

小規模のクリニックであればあるはど、そうしたものは確実に現れ、チームリーダーである院長のリーダーシップが問われることになります。そのため、「受付や看護師など、スタッフの対応はどうか」を見れば、いくらインターネットや広告でいいことばかりを言っていても、その正体がバレてしまうのです。

私か考えるに、「医療に妥協は許されない」ということです。「これぐらいでいいか」「こんなものだろう」と思っていれば、そのレペルでの結果しか出ません。病院やクリニックで、そのトップが「こうありたい」という強い意志があれば、周囲の人間もついていきます。

それが、すべてにおいて妥協していれば周囲も自ずとそうなってしまうのです。

これは人間管理だけでなく、手術を含む医療行為にも現れるのではないでしょうか。患者さんにしてみれば、「これぐらいでいいか」「こんなものだろう」では、たまったものではありません。

そうした意味からも、そこに働くスタッフの言動をチェックするのは重要なことなのです。

インフォームドコンセントについては先にふれましたが、おおまかな意味で「説明と同意」ということになります。

治療の前に「これはこういう治療法で、こうしたメリットがある反面、こんなデメリットもあります。それに対してこうした処置法があり、過去のケースではこのようになっています」と詳しく説明されたら、患者さんもその治療法をご自身の判断で選ぶことができるでしょう。

ところが、「心配いらないですよ。これは標準的な治療ですから」と言われて、術後に合併症や後遺症が出てしまった、あるいは再生してしまったということもしばしば発生しています。

患者さんにすれば、「どうして最初に説明してくれなかったのですか」となるのですが、悪い医師は「極めて、まれなケースですけど、こうしたことも起きてしまうんですよ」と責任を回避しようとします。

これは非常に困ったことです。

ワキガや多汗症の手術にしても、どれだけ熟練した医師であってもよ麗尹を求めることはできません。これは医療ミスというものではなく、先に述べた汗腺の再生や治療器具そのものに限界があるためで、いくらまれなケースであっても、医師はその説明責任を果たさなければならないのです。

つまり、「こういうことが発生してしまうことがありますが、いいですか」というように、これまでは大丈夫だったから、これからも大丈夫だろうというというのはあまりにも危険です。

さらに、メスを入れる場合、「手術痕はほとんど残りませんよ」と言いきる医師がいますが、メスを入れた以上、どうしても傷痕は残ってしまいます。「手術痕は残りますが、極めて小さなもので目立つものではありません」答えなければならないのに、「手術痕はほとんど残りませんよ」と答えてしまったばかりに後=、クレームの対象となった事例も報告されています。

インフォームドコンセントは医師側の責任ですが、患者さんも「先生に任せておけば大丈夫だろう」と考えずに、疑間点があれば気にせず質問するようにしてください。

たとえばインターネットのホームページや雑誌の広告で「最新鋭の器具を使用した新しいクリニックがオープンー・」というような情報にふれたとしましょう。「新しいところなら、これまでになかった治療が受けられるのでは」と思いがちですが、ここでも注意が必要です。

というのは、いくら新しい器具を使用していても、実際にそれを操作するのは人間だということです。

先にふれたようにワキガや多汗症の手術は熟練を要します。どのような新しい器具があっても熟練した技術と経験がなければ、思わぬ事故を招いてしまうことかあります。

それは手術というものが、コンピュータ処理による全自動のものではないため、どうしても執刀医の技量に左右されてしまうからです。前項の「これしかできない医師」というのも困りものですが、経験の浅い医師が見様見まねで手術するのはもっと危険です。

クリニックを開業する場合、どこかの病院やクリニックで"修業"を積んだ後、開業にこぎつけるのですが、どこの病院、クリニックでどれだけの実績を残したのかは、その医師の技量を見極める大きな目安となります。

航空機のパイロットの世界で「数子時間のフライト経験がある」ということが、評価されるように、同じ医師、同じパイロットでもその中身は違ってきます。そのため、「執刀医の経験数はどれぐらいあるのか」も重要なポイントとなってくるのです。